ばしこ氏のブログ

月間10万PVありがとう。Twitterの話題を中心に「ちょっとこれ、どうなんだ」というネタに切り込んでいきます。      言葉が死ぬ前に、残しましょう。

”インターネット税”を正しく叩く~ネットの”わかりやすさ”の危険性~

ツイッター、だーれもまともな議論してない。

 

ぐらいの気分で、眺めていたほうがよい、とたびたび思います。

今回は「インターネット税」という議論が巻き起こったことを取り上げてみたいと思います。

ちょっとあんまりにもまともな議論ができていないという印象だったので、この議論から見る、ネット議論の問題点、危険な点、そしてどういう方向に進めばよいかということを考えたいと思います。

 

で、先に行っておきたいのは、本記事は

「インターネット税を攻撃しないで! ほんとはあるんだけど攻撃しないで!」

と言う意見ではありません。

「もっと本気でインターネット税とやらをボコボコにしようぜ」

という意見ですので、これを信じている方こそ読んでいただきたいと思います。

また、インターネット税論争について知らない人でもわかるように記事を書いておりますので、ツイッターでの議論の仕方、よい議論、というものを考えていっていただけたらと思います。

 

 

 

1、インターネット税論争とは

経緯をお話しましょう。

www.sankei.com

 

まず最初にこういった記事が掲載されました。

リンク切れた時のために詳細を書いておくと

総務省が5G網を強化するために、5Gの基盤にもなる光ファイバー回線を維持するための負担金制度を検討中」との記事です。

その負担の仕方は、「インターネット回線の月額料金に上乗せして徴収される」とのこと。

ようは5Gを国が引きたいからその費用をネット回線に乗せちゃおうぜって感じの記事。

 

しかし、それについて以下のような意見が飛び交いました。

 

 

 

 

かなり厳しい意見ですね。

 

月額1000円も上乗せされたらたまったもんじゃありません。

5Gとかしらんし。

市民の怒りは当然でしょう。

携帯の通話料金や基本料金も高いですからね。

これが「インターネット税」として扱われるのはよくわかります。

近年、「車に乗っても家を買っても税金を払わなきゃいけない。そんなんで消費とかできるか」という批判もよくネット上で見かけますよね。

その流れもあっての「インターネット税」なんでしょう。 

 

 

2、「インターネット税」の正しい見方

 

さて、ひとしきり流れに乗ったところで、冷静に見ていきましょう。

 

・「インターネット税」ではなく、「ユニバーサルサービス料」である

・じゃあ「ユニバーサルサービス料」としては、これどうなの?

 

この視点で見ていきましょう。

そして、そこから正しくぶっ叩いていきます。

 

・「インターネット税」ではなく、「ユニバーサルサービス料」である

 

まず、「月1000円」はどこの記事でも述べられておりません。おいおい。

www.nikkei.com

↑有料記事だが、無料で見れる範囲に既に「月数円」と記載あり

www.jiji.com

”月数円を幅広く徴収し”

 

 

「インターネット税」という発想がそもそも間違いなんじゃないのかなと思っています。「ユニバーサルサービス料」と考えるのが普通です。

www.itmedia.co.jp

総務省もこれを否定し、「ユニバーサルサービス料」としてうたっている。

 

じゃあ、ユニバーサルサービスとはなんだろうか?

ユニバーサルサービス料とは、必須のインフラと考えられている加入電話、公衆電話、緊急電話(110、118、119)の回線提供の費用を、不採算地域にも引くために徴収する料金です。

月2~3円、全顧客から徴収されています。

NTTは昔電電公社、国の機関でしたが、現在は民営化されており、極論言ってしまえば、採算がとれない地域は電話回線を引く必要がありません。民間企業ですから。しかし、必須のインフラはそうもいかない。

金にならんエリアだから電話線引きません!なので救急通報できません!じゃ大変なことになる。

どうしても引いてもらう必要があるため、総務省が主導で「ユニバーサルサービス料」を導入し、必要なインフラ設置に使用しています。

特に、離島なんかだと海底ケーブルを何十km引く必要があるため、かなり費用がかかります。

↓以下に説明リンクを貼っております。

総務省|ユニバーサルサービス制度

 

また、このユニバーサルサービス料は、法律により「絶対に儲けがでない」ように、電気通信事業者法(通称電通法)にて定められており、以下のように、2018年度のNTT東日本では171億円の赤字、NTT西日本では223億の赤字であります。

(引用元は以下)

総務省|ユニバーサルサービス制度|適格電気通信事業者のユニバーサルサービス収支

 

また、このユニバーサルサービス料金は年々安くなっており、平成20年度には8円だったものが現在2~3円となっている。

f:id:wahoo910:20200122232746p:plain

総務省|ユニバーサルサービス制度|補填対象額・番号単価の推移

 

10円程度ならいくらでも誰も気にしなさそうですが、最初の電通法にのっとり、絶対にユニバーサルサービス料でもうからないように設定しているからこそ、細かい料金改定をしており、かつ企業努力もあってのこの2~3円というところなのでしょう。

それを考えると、僕はユニバーサルサービス料に関しては一定の信頼をしてもよいと考えています。

 

政府が出している情報がメインなので、政府を疑っている人のためにも他にも根拠を出していきましょう。

また、そもそも「いや、なんで月数円ってだけでユニバーサルサービスて言えるねん。普通に税金かもしれんやろが」という人もいると思いますので、その辺りをお話ししますね。

そもそも、インターネット回線の不採算地域は、NTTや、ソフトバンクは引きません。

金がとれないからです。

そして、その金がとれない地域に回線を引いたところで、なーんの価値もないし、国も支援してくれないので、誰も手出しをしません。

なのでいまだに、これだけネットが広がっても、一部村や町ではまだまだ光回線がまったく来てないエリアがあります。

しかし、これだけインターネットが必要とされている社会なので、いい加減「インターネットも、電話と並ぶ、重要なインフラ」として扱っていいのではないか?という議論は近年なされていました。

www.asahi.com

上記の記事は2019年3月の記事で、この段階で既に「ブロードバンドをユニバーサルサービスに」という考えで話が始まっている。

これだけで、少なくとも、「ここ数カ月で5G広めんとヤバイと思って慌てて進めようとしたインターネット税法」ではないことはわかる。

 

・じゃあ「ユニバーサルサービス料」としては、これどうなの?

しかし、まだまだ疑っている方もいるでしょうし、「じゃあユニバーサルサービス料として考えたら、これはいいのかよ!?」という意見があります。

ここでようやく、正しい議論の形に戻ってきました。

今まではズレた議論から、正しい形に戻す論理を語ってきましたので。

 

さて、結論から言いますと、「ユニバーサルサービス料として見れば問題ない」という点と、「ただし、ちゃんと「不採算地域のため」にしっかりとなっていくか」というところだと僕は思います。

 

僕の意見としては「ユニバーサルサービス料」なら全く問題ありません。

www.nikkei.com

↑有料記事だが、無料登録すれば普通に見れるので是非読んでほしい。図も入っていてわかりやすい。

そもそも、70万世帯の未提供住居がいまだに日本には存在します。

インターネット回線が普及していない世帯があります。

しかし、世の中のサービスはスタンドアロン型からクラウド型に変化していき、インターネットありきのサービスがどんどん増えています。

しかも、2023年には、ADSL回線の提供を終了するとNTTが発表しています。

NTT東日本 | フレッツ・ADSL サービス内容 | フレッツ

このADSLとは、アナログ電話回線を利用してインターネットを行うサービスで、現在光回線が来ていないエリアは、こういった形でインターネットがなんとかできています。

これも今後終了してしまうわけです。

これも、民間企業なので、誰がどういおうとも、お金を出さなきゃ引きません。

需要と金額を鑑みて、これ以上維持できないと判断し、終わるということでしょう。

 

www.ntt-west.co.jp

 

そもそも、ADSLが2015年に「新規受付」を終了しており、既にたたもうと考えていたことがわかります。

それを鑑みると、NTT側と総務省側で、ある程度「いつ頃にADSLは終わらせる」という話は既にこの2015年より前から話をしていたと考えるのが妥当でしょう。

つまり、「ADSLを終了し、光回線のみでインターネットを運用していく」という流れを既に総務省と2010年~2015年辺りに話をしており、ADSLが終わる前に「光回線ユニバーサルサービス料」を導入し、ADSLしかない地域にも光回線が引けるように、というのは既定路線だったということです。

そうでなければ、ADSLが終わるこの前のタイミングでのこのユニバーサルサービス料の話、あまりにも話がうまくいきすぎです。


つまり、5Gの流れとかカンケーなく、そもそもADSLの終了に合わせてユニバーサルサービス料をとる予定だったということ。

ようは、そもそもは、携帯会社から料金を取るつもりは最初なかったんじゃないでしょうか。

それをふまえると、どちらかというと、5Gも絡めて携帯電話会社からもユニバーサルサービス料を取っていこうという考えは、むしろ収入が増え、インターネット回線利用者だけが負担を強いられ、5G利用業者や携帯利用者がタダ乗りするような事態は避けられる、良い案なのではないでしょうか。

 

その観点では僕は問題ないと考えています。

 

しかし、問題点として挙げるのは、5Gが絡むことで「本当にユニバーサルサービスのためだけに使えるのか」という点です。

現状、5G回線をどのように使われていくかは僕もイメージができていません。

なのでもうちょっとわかりやすくしましょう。

「携帯利用者が得するか、ネット利用者が得するか」というところです。

これにおいて、前者ばかりが得をし、実際問題、不採算地域でネット利用者はおらず、専ら5Gのための設備保守に金が使われる…となると、ユニバーサルサービス料を払っているネット回線利用者からしたら「それ携帯業者だけでやれよ」という話になってしまいます。

現在「携帯料金は異様に高い」「もっと値下げを」といった話も出ており、総務省もたびたび忠告しております。

japanese.engadget.com

この間の大きな介入は話題になりましたよね。↑がいい記事です。

4割も下げろと言われている現状では、そこから月2~3円程度のユニバーサルサービス料は捻出できるのでは?という疑問がわいてきます。

 

僕の意見をまとめるとこうです。

 

ユニバーサルサービス料は徴収してもらっていい。不採算地域に光回線を、というのは時代の流れを鑑みてもそうすべきである。

・ただし、5Gのためだけに使われると問題。また、5Gのために使われる意味合いが強くなるならば、料金を高く徴収しているといわれている携帯業者は、その料金を5G維持に回すようにしてほしい。

 

という形です。

 

ここまで来てようやく、「マシな議論」になったんじゃないでしょうか。

僕は5Gに詳しくないため、5Gに詳しい方々からの反論もあるかと思いますが、ここまで考えないとそもそも反論すら飛んでこず、無視されます。

 

3、なぜ、「インターネット税」が流行るのか?

さて、長かったですが、ひとしきり批判は終わりました。

このように、この問題に首を突っ込むなら、多少調べて理解していないと批判ができない難しい問題です。

しかし、ここまで調べず、かつ、考えなくて済む方法があります。

 

「インターネット税ふざけるな!」と叫ぶ。

 

終わりです。

これで、何も考えなくても、さも政治を語ったようにできます。

インターネットに流れてくるツイッターのあおりをそのまま使うことで、政治にわかったような発言ができます。便利ですね。

インターネットは大量に情報が流れてくるため、目の前の情報を鵜呑みにすることが一番早い手段です。でなければ、全ての情報を読めませんから。

 

しかしそういった発想になってしまうと、権力者や政治家に利用されるばかりになってしまいます。

今回のことでも、そもそも「月2~3円」とある程度目星が立っているようでしたが、僕が政治家なら、わざと「1000円の徴収もありうる話だ」だとかいってさんざ国民をあおります。

そしたら、インターネットの人々は騒ぐでしょう。

そうして、「月1000円のインターネット税!!!ふざけるな!!!」という話で盛り上がっていくでしょう。

僕の今回の記事のような細かい論調は読みません。時間と思考力がありませんからね。

そうして、ひとしきり議論が盛り上がった後に、さも屈服したかのように「すいません。インターネット税は導入しません。ユニバーサルサービス料として月10円徴収します」といい、事態の収束を図ります。

最初1000円だと思っていた人々は、10円ならどうでもいいやとなるでしょう。しかし、僕はここで勝手に当初の金額より利益を7円ほど載せています。あとはこれをどっかに横流しします。イエーイ!!!

でもみんなは見向きしません。1000円を10円にできたんですから。

 

このような利用をされかねません。

 

なぜこういったことが起こるか。

こういった人々の感情は、どのように起こっているのか。

それについては、哲学者のハンナ・アーレントが「全体主義の起源」で解説しております。それを一部インターネットの議論と絡めて考察している、仲正昌樹先生「悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える」をちょっと引用しますね。

ちょっと脱線して分析しますがお付き合いください。

 

全体主義の起源」では、「市民」と「大衆」が分かれて書かれています。

市民、は、「自分たちの利益や、それを守るためにはどう行動すればいいかということを明確に意識している人」です。彼らは、自由や平等に関する権利を積極的に発言したり、考えたりし、政治に積極的に参加していこうとする人々です。

一方、大衆、は、「何が自分にとっての利益かわからず、どこにも所属しない人」です。どこにでも所属できるし、どこでも対応できるから、特にこだわりがなく、政治も特に投票には行きませんし、政治家がなんか楽に変わってくれることを待っている人々です。

この時代、「後者でもええやん、なんなんお前?」とか言われそうですが、後者はただこれだけなら問題なのですが、実際問題、政治や経済が不安定になってくると、自身にもそれが降りかかってくることをおそれ、ようやく語ろうとしだします。

しかし、自分はどこにも属さず、かつ、今まで考えてもきていないので、思考力や自分のはっきりとした政治観や、支持したい政党がありません。

そういった時に、わかりやすい、シンプルなイデオロギーが利用されるのです。

 

ようは、ここでいう「インターネット税」です。

 

ハンナ・アーレントはナチズムに傾倒した国民が、どういう構造でそうなったかを考えていましたが、全体主義の起源では、先の大衆をあおるために、シンプルなイデオロギーとして「ユダヤ迫害」を訴えた、とありました。

 

まあもちろん、インターネット税なんて、大した話じゃありません。ナチズムと絡めるほどのたいそれた話ではありません。

ただ、構造原理は一緒なのです。

わかりやすく、かつシンプルな考え方があれば、大衆を扇動できる。

 

「とりあえずようわからんけど、インターネット税とかいうてインターネットにも税金かけようとしとるんやな!政府ふざけんな!」

 

と、「叩けた気」にさせてくれるわけです。

結局、そういった発言は、ツイッターではふぁぼが稼げます。RTが稼げます。大衆がたくさんいますからね。わかりやすく叩きやすいので、みんなRTしていきます。

そうすると、「お、RT多いからみんな賛同しているんだ」と勘違いした人々がさらに集まってきます。

あとは、呟き主はそのRTをもとに宣伝に使ったりとか、さらに過激な記事をnoteに書いて売りつけてもいいですし、amazonアソシエイト貼ってもいいでしょう。

 

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結局、先に記事にありもしない「インターネット税は1000円!」と書いて、5000RT を見事いただいたしろくまさんは、「地震予測実験」(うわあやべえにおいしかしねえ)とやらを販売しているようで、地震予測のツイートだらけでした。まあ5000RTのうちの数人でも買ってくれりゃ儲けもんでしょう。

 

叩けた気になって満足していても、その実、その思いは他人に悪用されているのです。

こんな地震予測の宣伝に使われるの嫌じゃないですか?

そんな人に自分の考えを利用されるのは嫌じゃないですか? 僕は嫌です。 

 

4、”一目でわかる意見”は危険である

さて、というわけで、「インターネット税」を正しくぶっ叩いていきました。

いかがだったでしょうか。

一方で、「インターネット税だ!」と叫ぶだけの議論がいかに危険か、わかりましたでしょうか。

 

近年ツイッターでは明らかに「わかりやすい、一目でわかる意見」が増えました。

それはバズるからです。

そしてそれをみてTVも味をしめており、ネットメディアやTVも平気で「インターネット税」というワードを使っていました。

それに乗っかることで、誰が得するかというと権力者です。

メディアです。

経営者です。

バズって盛り上がれば盛り上がるほど、人が集まります。

そうなると皆、わかりやすく扇動をかけてきます。

それに乗ってしまい、けれでも「自分は分かっているんだ!」と思いこむ。

 

そんな状況になってしまうと、かなりまずいんじゃないでしょうか。

一生権力者に使い倒されて終わりです。

そうならないよう、「大衆」から「市民」になっていきましょう。

 

おしまい。

 

 

 

というわけでみんなハンナ・アーレントを読むことをおススメします。

 

 ↓3、にて引用した新書。入門にピッタリ。

悪と全体主義―ハンナ・アーレントから考える (NHK出版新書 549)

悪と全体主義―ハンナ・アーレントから考える (NHK出版新書 549)

  • 作者:仲正 昌樹
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: 新書
 

 

 ↓記事内の「市民と大衆」の話は、全体主義の起源 三巻です。

 

 ↓議論をするうえで、めっちゃわかりやすく、考え方の間違いを修正できる本。

増補版 大人のための国語ゼミ (単行本)

増補版 大人のための国語ゼミ (単行本)

  • 作者:野矢 茂樹
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/10/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

 

 

 

ハンナ・アーレント (ちくま新書)

ハンナ・アーレント (ちくま新書)

 

 

 

 

アレント入門 (ちくま新書1229)

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