ばしこ氏のブログ

月間10万PVありがとう。Twitterの話題を中心に「ちょっとこれ、どうなんだ」というネタに切り込んでいきます。      言葉が死ぬ前に、残しましょう。

攻殻SAC2045は、いったい何がしたいかわからない

はじめに:この文章の意義とスタンス

僕は攻殻機動隊が好きだが、SACの中身を全然わかっていない。

色んな人が密度の高い批評や分析を載せているが、そもそも文学的知識(サリンジャー)や政治的知識(公安の立ち位置、その他省庁や国同士の利権問題など)にかなり疎いからだ。

だから僕がSACを見た時はこんな感じだった。

 

笑い男…ってやつが黒幕なんだって

サリンジャーを引用?しているんだって!(それ以上は話せない)

・なんかかっこいいセリフ~!

・SF~!

・なんかスパイ活動している~!

・でもなんか他のヤツより深そう!何回か見てると発見がある!

 

いわばまあ、僕は攻殻ライト層であり、コア層ではない。まあこのくらいの理解度なので、作品考察とか、そういうことはあんまりできないので、最初は文章を書く気がなかった。だって、僕より理解されている方々が文章書いているわけだし…

ただ、今回の「攻殻機動隊SAC2045」は制作側のスタンスとして「SACみたいな難しい話、わかんないよね…簡単なライト層向けのものを用意したよっ!これでどう?」と言われている気がした。

 

https://news.yahoo.co.jp/byline/iidaichishi/20200422-00174601/

これは飯田一史による批評である。一部を引用する。

(すでにリンクがキレているが…)

 

つまり、『攻殻』に「新しさ」と「考えさせられること」を求めているなら肩透かしを喰らうだろう。

しかし原作にしろ押井版にしろ、四半世紀以上前の作品にもかかわらず、いま触れても難解な部分がある。

(中略)

とはいえ『攻殻機動隊』が生まれて約30年経つ。過去作をまったく知らない若い世代や、「なんか難しそう」「観てみたけどよくわからない」と敬遠してきた人たちもいるだろう。

そういう人たちにとっての「入り口」としては、『2045』はちょうどいい密度なのかもしれない。

(中略)

初心者、SF初心者向けに振った作品なのだと捉えれば、こういう『攻殻機動隊』もアリだろう。

これからもさまざまなタイプの『攻殻機動隊』を作っていくために、一度「誰でもわかる」濃度で初見者のためにリブートしたのだと解釈したい。

 

正直、これを読む限り、明らかに飯田氏は納得していないし、とても初心者向けに作ったとしてもいい作品とは思っていないと思う。

”入り口としてはちょうどいい密度なのかもしれない”とか”「誰でもわかる」濃度で初見者のためにリブートしたのだと解釈したい”とか「納得いかねえけどこういうことにしとくしかないでしょ~」という感覚を感じる。

だからあえて言おう!僕は攻殻初心者だが……つまんなかったよ!!

この文章は「もし制作側が初心者向け・攻殻ライト層向けに作っているなら、僕はライト層だけどつまんなかったよ」ということと、「これ本当にライト層向けに作ってていいの?/本当に作っている?」ということを、ライト層から切り込んでいく、という主旨で展開していく。

 

先に感想言っておくと「中学生向けの攻殻?」って感じです。

 

 

記事文字数にして12000文字前後の長長編ブログになっていますので、適宜飛ばしつつお読みくださいませ。

また、既に「攻殻機動隊 SAC2045」を見たこと前提となっているため、未視聴の場合内容が分かりづらいかと思いますのでその点ご了承ください。

 

公式サイト

www.ghostintheshell-sac2045.jp

 

僕が感じた違和感と、その分析

というわけで、僕が「なんか違うなあ」とか「つまらんなあ」と思ったところを上げていく。最初はともかく、「なんか詰まってない」「チープ」というのが感じた印象である。物足りない、圧倒的にSACに比べて物足りない。その物足りなさはなんなのかをここで分析していく。これを書くにあたって、SACを一度全部見返して、SACとSAC2045の違いを比較した。ざっくりとまとめると

①バックボーンをもっと書いてほしい

②ジョン・スミスの描き方と、アメリカとの関係性が雑

③『公安9課』じゃなくて、『ただの傭兵』でいいのでは?

④イシカワの出番がなくない?プリンいる?

⑤タカシくんで3話+それ以降も使う必要ある?(内容がチープ)

⑥1984の出し方、雑!この辺りである。順を追って説明する。

①バックボーンをもっと書いて!全然わからない。

SAC2045のはじめ1~5話あたりは、まあドンパチシーンが多かったので、多少物足りなさがあっても、3DCGを使ったアクションシーンや電脳シーンのおかげで補われていたと思う。

しかし、ジョンスミスが壁の向こうへの砲撃を拘束の理由にした割には、壁の向こうやサスティナブルウォーの話はほったらかし。

拘束される理由たりえるならば、壁の向こうへの砲撃がよほど重要で何かしらの社会情勢が動いただとか問題が起きた~とか、そういう話、ないんだろうか。

特に僕らライト層にとっては、そこは説明がないとさっぱりわからない。そしてサスティナブルウォーの話がナアナアになったかと思えば今度は「ポスト・ヒューマン」が出てきて、そのあと「シンクポル」が出てきて…。なんだか話があちこちに拡散していて、どうも収束する気配がない。一話完結型で任務をポンポン解決していくんであればいいんだけれども(例えば7話の銀行強盗の話とか)、SACなら、そういう一話完結型の話の中からも、SACの世界観がどういったものかを描いていって、じわじわと確信に迫っていくような構成だった気がする。

何も話の確信に迫るものがないのだ。

 

SACの場合、前半の4、5、6話で「笑い男」の話が出てきて、その中でじわじわと笑い男の話がわかり、かつ、そこで事件は解決していない。だから今後も話が続くのだろうと視聴者は予想できる。そのうえ、SACでは謎のピースは存分にちりばめられていた。笑い男初登場のTV映像、会見での笑い男登場、七尾という偽笑い男は警視庁が準備した説……などなど、今後の話の芯をなすストーリーが前半でしっかりと出てきた。

 

一方、SAC2045の場合、前半は別の場所でドンパチやるのがメインなもんだから、サスティナブルウォーがどういうもんかイマイチわからないし、前半6話も使っておいて、わかったのは「ポスト・ヒューマン、やべえ!」ぐらいのことである。せめて前半6話を「サスティナブル・ウォーに直面する少佐たち」といった形にして、後半「ポスト・ヒューマンについて解決を目指す少佐たち」というように、どういう世界観かわかるような話が欲しかった。現状では、僕は「わあ、なんかドンパチやってる少佐~」「わ、なんかジョン・スミスとかいうの出てきた~」「は?ポストヒューマン?」と言う感じだった。世界観がさっぱりわからない。

というかそもそも世界観ちゃんと作ってるんだろうかコレ?

 

②ジョン・スミスの描き方と、アメリカとの関係性が雑

SACならば、6話までの間で既にポストヒューマンのバックボーンやそれを匂わすことまで描いているんじゃないだろうか。アクションシーンが多すぎて、それに説明を割く時間がなさすぎる、というのが①で話した話のメインである。

その中で説明が雑だった一つとして、ジョンスミス周辺の力関係である。

アメリカ合衆国は、いつの時代にも日本より強い力を持ってて、なかなか逆らえないな~みたいな感じ(雑)なのはまあ僕でも一応わかる。けど、だからと言ってジョン・スミスに素直に従いすぎではないだろうか……。

前半6話で、少佐はずっと従っていて、結局最後までトグサと課長頼みで、なんにもやっていない。もちろん、この時はあくまでも傭兵だから、九課のような装備がないにしても、拘束された施設でもっと調べるとか、こっそり探索してジョン・スミスの裏側を調べるとか、なんでここまでポストヒューマンにこだわるかとか、何かやるだろう。

なぜ何もしない?

ここで問題なのは、「さっさと逃げろよ!」という話ではない。

「囚われながらも、裏ではいろいろと調べていた少佐たち」を通して、僕らは「ポスト・ヒューマン」や「サスティナブル・ウォー」、「ジョン・スミス」のバックボーンを知ることができる。

SACなら、そう描いたんじゃないだろうか。

そうして、ジョン・スミスに逆らえない理由を補強したり、今後の話の補強をしたんじゃないだろうか。今見返してみても、3話でバトーが「こいつら…デルタの義体化部隊か…」と言ったくらいで、それ以外にはさっぱりわからない。サスティナブル・ウォーも単語が出てきただけ。ジョン・スミスのプロフィールも不明。

 

イシカワ『ダメだ、ここのセキュリティは固すぎる。突破できそうにない』

素子『これだけの装備…一体どこから調達したんだ?』

バトー『あいつらのバッジ見たか?アメリカ合衆国大統領様直属の部隊だ』

素子『ならこの作戦を止められるのは大統領だけ…』

 

とか

 

イシカワ『ヤツの名前は…ジョン・スミス!?』

バトー『バカ言え。わかりやすい偽名だ。すぐ調べがつくだろう』

イシカワ『いや、それがどこを調べてもヤツの本名が出てこない』

バトー『デルタ関係じゃないのか?』

イシカワ『それがデルタでもCIAでもねえんだ。なにもんだ?』

 

とか、そんなんでもいいけどさ(僕じゃこんなのしか思いつかないけど、これでも多少深めることできるでしょ)、こういうやり取りがない。

ちょっとした会話からワードや登場人物のバックボーンを掘り下げる要素がなさすぎる。

前者はこの作戦を止める難しさが補強される。

後者は、ジョン・スミスが謎の人物であることへの補強がされる。

かつ、ジョン・スミスが九課を拘束し続けられるほどの力があることを補強することができる。しかし、そういったものが全くないまま、なんでかジョン・スミスに前半でもずっと従い、後半でもジョン・スミスに従いっぱなしの九課。だから、「なんで?」がずっと頭に浮かびっぱなしだった。

 

そのあとの8話とか最悪。あれは「トグサの迷いを書く話」であっちゃダメ。

九課の装備が仮に使えそうな状態ならば「ジョン・スミスの裏を暴く話」であるべきである。

何故なら、ジョン・スミスのやり方があんまりにもスマートじゃないし、感情的すぎるから。

ずっと「命令だ」「やって当然だ」と言いつつ、それだけのことを堂々と言える権限がある根拠も、逆にそうやって無理に言い切る(=焦っている)根拠も見当たらない。もし、先の1~6話で「九課のような装備がなかったから情報戦を仕掛けられなかった」と言うのであれば、SACで考えたら、8話は

 

イシカワ『ジョン・スミスは依然名前は不明だが、ポスト・ヒューマン症状が出た義体を製作した、アメリカの義体メーカー最大手のA社でよく出入りしている形跡は見付けた』

バトー『なるほど。A社っていや、世界的に見ても義体メーカーのトップ5には入る大手企業だ』

イシカワ『加えて、現在アメリカは5ヶ国間での経済協定での目玉で、義体輸出の緩和を入れている。もちろんこれはアメリカに利益があるものだが、他国では質の悪い義体が市場を荒らしていることがたびたび問題となっていた。だから品質に保証のあるA社の義体が多く流通するようになれば、他国でのメリットもある経済協定なんだが…』

素子『そのタイミングでの義体の謎の不具合、「ポスト・ヒューマン」ってわけね』

イシカワ『まだ仮定の段階だ。これがA社製に限った不具合かもわからん。ただ、この辺りで何かしらの利権が絡んでいる可能性は高い』

 

とかなんとか、そうやって「ジョン・スミスに従いつつも、実は裏ではジョン・スミスを調べている」といった感じでないと攻殻機動隊じゃないよ…。

必死で隠しながらやる理由(有能な9課を使いつつも消そうとまでしたりしたし)、それがさっぱりわからない。しかも「完全オフラインでポストヒューマンについて分析しています!ハッキングされません!」→「向こうの言葉を解析しようと、その言葉を入力してたらハッキングされました~!」ってめっちゃバカじゃん…。むしろそんなにマヌケなら

 

イシカワ『こいつ…アメリカの国会議員○○の一人息子か』

バトー『○○っていや…一時期大統領選出馬も謳われていた、民主党トップ5じゃねえか』

イシカワ『ただ…いい大学を出たはいいものの、政治手腕はあまり振るわず、各省庁を転々とするも…結果は出ず。いくらボンボンの息子と言えど、限度がある。これが最後のチャンス、として…』

素子『今のポストを与えられた。このポスト・ヒューマンの解決は、彼にとって政治生命をかけた戦いなのね』

バトー『ケッ、そんなやつを長官に据えるたあ、アメリカもポスト・ヒューマンについて大して重要視してねえってことじゃねえか?』

イシカワ『いや、そうとも言えねえ。こいつはマサチューセッツ工科大学義体の研究をしていたそうだ。こいつの研究成果を見るに…むしろ政治家にならず、研究してたほうがよかったんじゃないのか?』

とか

バトー『くっそ~ムカつくぜあの野郎、あのジョン・スミスとかいうふざけた名前のヤローに、一発かましてきていいか?』

素子『それはダメよ。そんなことしたら、我々の首どころか、大統領まで首が飛びかねない』

バトー『なんでだよ!?あいつにそんな力ねえだろ!』

イシカワ『日米安保だ。日米安保地位協定に関する奴らが、トグサを追っていたのは聞いただろ。今現在、大統領は国内の米軍基地完全撤退を本気で目指している。そのために、アメリカに貸しを作っている』

素子『一方でアメリカはそんな状況下で貸しを作りたくはない。しかしポスト・ヒューマンの問題でどうしても頭を下げざるを得ない…』

バトー『またとない絶好の、恩を売る機会、ってわけか……』

素子『そんな状況で破談にしてみなさい、九課なんか即解散よ』

 

とか(ここも僕安保詳しくないから色々怪しいかもだけど)、『ジョン・スミスが無能だけど現在のポストにいる理由』の補強とか(前者)、『ジョン・スミスはどうでもいいけどアメリカに逆らえない理由』の補強とか(後者)、そういうところをしてほしい。たぶんこういうところがないから「なんか詰まってないなあ」と感じたんだと思う。「アメリカが強大である」というのは、流石に自分でもざっくりとは理解するが、だからといって何の説明もなしにあんな無能に従わざるを得ない理由が全く分からない。

 

むしろ、このまま話を展開するのなら『傭兵部隊』でいいのだ。

 

③『公安9課』じゃなくて、『ただの傭兵』でいいのでは?

基本的に「公安9課」とは、公安部隊である。

主に国家体制を脅かす事案に対応するのがメインであり、政治的なテロリズムやクーデターに対応する部隊である。

つまり、ただ「戦闘で勝つ」というだけではなく、必要とあれば「こういった人間がテロリズムをする可能性はないか」と情報収集もする必要があり、ただ命令を受けて何も考えず戦うだけの人員なら、はっきりいって傭兵部隊でいいのである。

②で取り上げた内容を考えれば、わざわざ「公安」が絡む理由が全くもって理解ができないのだ。

無能なジョンスミスに何も言えずしぶしぶ従ったり、それを裏をかこうともせず、ただただ強力な義体(ポストヒューマン)と戦うだけでいいなら、マジで「傭兵部隊」でいいのだ。

 

それは『わかりやすい攻殻』では断じてない。

ただの『攻殻アイデンティティを放棄した雑なアニメ』であり、

それならばサイコパスみたく『似たような全く別物のアニメ』を作れという感じで、攻殻でやる意味がない。

 

他の事件もそうだが、全く政治的な絡みがないものが多く、シンクポルの話も後述するが、あれも別に「子供が発狂した」みたいな感じで、公安9課が絡む案件ではないと思うのだが……。

 

④イシカワの出番がなくない?プリンいる?

先の②を見るに、話の補強をするうえで重要な役割なのがイシカワだ。イシカワが情報を調べたり、いろんなところのロックを解除したりとか、そういうのが、九課だなあ、と思っている。

でもなんかプリンというおちゃらけたキャラがその役を引き継いだりする意味はあるんだろうか……。ただでさえ、バックボーンの書き足りなさ=イシカワの出番の少なさがあるのに、その上にプリンが出てきてしまっているのでもうだめだ。というか、このキャラの必要性がさっぱりわからない。

確かに僕らライト層は、こういうキャラクターを求めることはあるし、実際可愛いと思う。けど場違いすぎる。僕らも公安九課が真面目な難しい話をしている中で「うひょ~!」とシコる気分にはならない。別にこういうキャラを摂取したいならきらら系アニメでも見るし。攻殻にそういうのは見に来ない、別に。むしろこれが完全なAIで

タチコマ『ああ~!僕らの思考を参考に作成した最強のAI「プリン」が~!』

バトー『なあんかお前らに似てるよなあ、と思っていたらやっぱりそういうことか』

タチコマ『バトーさんはこういう女の子が好みかと思っていたんですけどねー』

とかそういう話がないとおかしいなってくらい、めちゃくちゃ不自然、プリンちゃん。ライト層を取り込むためにこんなキャラを出してきても、別に、攻殻には見に来ない……せいぜいエロ同人誌が増えるだけで攻殻のファンは増えない。だって、攻殻2045の芯となるキャラかと言ったら、そういう訳でもないし。

そもそも、江崎プリンが「グリコ森永」と似せている感じがして、何かしら裏があるような気がするが、「裏があるんじゃね!?」とワクワクする魅力がないというか…。

作品全体の出来の悪さを見せつけられているので、むしろ「江崎プリンぐらいに裏あってくれよ」という印象。

 

⑤タカシくんで3話+それ以降も使う必要ある?

ここまで言ったら、だいたいここの不満の理由もわかるだろうか。ぶっちゃけ、タカシ君ってただ中学生が女の子助けたい妄想の中でアプリ作ったってだけで。それって、多くても2話で処理してほしい。それにそんな大きなバックボーン、いるだろうか?

そんな「好きな女の子を助けるために軍隊を目の前に無双する俺カッキー!!!!」みたいな中学生あるある妄想のためなんかに九課を振り回さないでほしいし、先述したようにそれはもう「警察」でやる話で、公安が出張ってくる必要も意味もない。

そもそも、その程度の思想しかない人が、九課の頭脳に勝てるとは考えにくい。中学生の思春期発想それのみで九課を倒せるなら、もう九課さっさと解散してほしい。

もしそれが「ポスト・ヒューマンの力!」というのなら、それは思考の放棄、制作側の説明放棄な気がする。しかも、女の子が襲われたシーンと、タカシくんの過去が全くつながらない。タカシ君がトラウマになったシーンって、ただ妹死んだだけ。別にタカシ君の考え方や動き、想いが干渉していない。ただ巻き込まれただけ。

それってそんなに重要だろうか?

例えば、妹が危ないのに彼がビビッて守れなくて死んだ、とかなら、まだ多少の絡みはあるだろうが、それすらもない。んで、別にタカシ君は「ポスト・ヒューマンで、シンクポルを作った」というだけで、ポスト・ヒューマンの真相を知る人物ではないし、逆にこのSAC2045のストーリーにおいてシンクポルがそんなに重要な要素だったわけでもない。そんな人物に3話も使わなくていいし、しかも「また次のクールに!」ってされても「あっ、そうですか…」としかならない。

 

⑥1984の出し方が雑

さらに拍車をかけるように、1984の出し方があまりにも雑である。

早急に「ポスト・ヒューマン」と「シンクポル」の話題を出しておくべきだった。どうも、「SACの真似をしようとしてコケた」感が否めない。SACの「ライ麦畑でつかまえて」というか。

話の芯がしっかりしていない→そこに突然出てきたシンクポル→そこに突然出てきたタカシ君→そこに突然出てきた1984って感じで、ああ、そうですか…と言う感じ。

サスティナブルウォーなどが1984の「永久戦争」を使っているのもあるから、1984をちりばめてはいるのだけれども、1984はライ麦と違って直接的にSFだから、どうもこの1984がシナリオ全体に悪さをしている気がする。

どういうことかというと、そもそも今までのSACで軸となっていた小説は、「ライ麦畑で捕まえて」と「近代能楽集」であり、当たり前だが、SFには何ら関係ない。だから遠回しに絡めていたが、1984はいかんせんSFであるばっかりに、無理に絡めようとして既存のSACと衝突事故を起こしてシナリオがぐちゃぐちゃになっている印象がある。

 

加えて、あまりにも小説が直接的に登場しており、どうも「こうやって小説を何かモチーフにしたらウケるんでしょう?」という雑感が否めない。

まあ「シンクポル」などの引用はあったにせよ、もう少し自然な形で小説に触れる形にしてほしかった。色んな本棚の中からこの一冊を気に入ったなどではなく、バサッと渡されるのはこう……なんか……あまりにも雑じゃないでしょうか……。

 

「ライト層」向けの攻殻をもう一度考える

さて、前半がっつり考察してしまったので、では改めて、もう少し「ライト層」寄りの視点で考えてみる。まず、僕はざっくりSACについて「なんかわからんなあ」となってしまったことを説明したが、そこをSACを見返して、再度分解して具体的に記述してみた。

米印が入っているものは、一話完結型の話。

・よく内容が分かった話

1話※  公安9課 SECTION-9

2話※ 暴走の証明 TESTATION

3話※ ささやかな反乱 ANDROID AND I

4話 視覚素子は笑う INTERCEPTER

5話 マネキドリは謡う DECOY

6話 模倣者は踊る MEME

7話※ 偶像崇拝 IDOLATER

8話※ 恵まれし者たち MISSING HEARTS

10話※ 密林航路にうってつけの日 JUNGLE CRUISE

11話※ 亜成虫の森で PORTRAITZ

12話※ タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM

13話※ ≠テロリスト NOT EQUAL

14話※ 全自動資本主義 ¥€$

15話※ 機械たちの時間 MACHINES DESIRANTES

16話※ 心の隙間 Ag2O

17話※ 未完成ラブロマンスの真相 ANGELS' SHARE

18話※ 暗殺の二重奏 LOST HERITAGE

21話 置き去りの軌跡 ERASER

22話 疑獄 SCANDAL

24話 孤城落日 ANNIHILATION

25話 硝煙弾雨 BARRAGE

 

・大筋は分かったが難しかった話

9話 ネットの闇に棲む男 CHAT! CHAT! CHAT!

19話※ 偽装網に抱かれて CAPTIVATED

20話 消された薬 RE-VIEW

 

・全く分からなかった話

23話 善悪の彼岸 EQUINOX

26話 公安9課、再び STAND ALONE COMPLEX

 

●全体を通して

・一話完結型の話は基本分かりやすかった

・やはり笑い男絡みが難しかった

笑い男絡みは「明確にどこが敵になるのか味方になるのか」が分からず、何度か見返した僕がSACを見て戸惑ったのは、「大筋は分かったが、最終的に笑い男の目的が見えなかった」というところだろうか。

 

しかし、そもそも『ライト層向けの攻殻』が現在の構成で必要なのだろうか?

と、言いたいのは、そもそも構成として、上記図を見れば話の冒頭(前半)はほとんどわかっており、後半の詰めになるにつれ「わからない」となっていた。

少なくとも、僕のようなアホでも、「何が詰まっているかはわからんが、『なにか』は詰まっている」ことはわかるので、ちゃんと作りこんでいれば、その『なにか』があることがわかるだけで、十分見続けるモチベーションとなる。

頭っからそもそもどういうアニメか理解できなかった場合、そこで視聴をやめてしまう可能性があるが、攻殻はSACも2ndGIGも

・SAC…笑い男

・2ndGIG…個別の11人、合田一人、クゼ

という軸となる存在が常にいて、そしてそれらの概要は、

しっかりと一つの話の中で理解できるようになっており、

「あ、何かボスとして『笑い男』がいるんだな」という前提がまず頭に入り、その後、笑い男の偽物や、それを利用しようとしてくる何かが出てきて……と、話が展開していくようになっていく。

 

逆に言えば『わかりやすい攻殻作るんならSACと2ndGIGよりわかりやすいの作れよ』って話なんですが全然SAC2045わかりやすくねえよ

って話が言いたいのです。

 

最初にサスティナブルウォーが出てくる。で、それに巻き込まれているらしき若者が出てくる、で、壁の向こうとこちらの隔たりの話が出てくる。

で、それほっといて「ポストヒューマン」が出てくる。

ジョンスミス。シンクポル。1984。

終始話が拡散しっぱなしで、それぞれの要素の説明や補足は一切ない。

話がSACや2ndGIGより全然わからない。

 

『面白いSACの続編』でもない。

『わかりやすい攻殻』でもない。

『つまらんし中身ないしぐちゃぐちゃでよくわからん攻殻』である。

 

これってどこに向けて売っているんですか?

 

 

Production IGと神山健治が揉めた?~制作方針揉めたか~

 

ここまでさんざん叩いてきたが、気になっているのは「なぜ、こんな作品が生まれたか?」である。

わかりやすい攻殻にもなっていない、SACの正当な続編でもない、販売戦略としても、作品作りの観点で考えても、いったい何がしたいかわからない作品になっている。

これでふと思ったのが「内輪もめ」である。

 

そもそも疑問だったのが、神山健治が監督で、1~2話は神山健治が書いているのだが、後は全部他の無名のライター、で、後半になって共同で脚本を書いている。

f:id:wahoo910:20211017170708p:plain

 

これで言うと

「前半だけ神山が書いて後半はすべて後進育成のために新たな人々に任せるつもりだったが、結局途中でヤバいことになり軌道修正に入ったが間に合わなかった」という感が否めない。

後進育成…てのは檜垣亮がIGの人間で、ちまちまとした脚本しか経験していないような印象だったためまあ憶測にすぎないが、少なくとも「何かしら理由があって、神山以外の人間に今後任せたかった」、まあ、正直神山おらんと攻殻作れん、じゃあきついだろうから、他の脚本家の手で作って成功する例が欲しかったんだと思うが、ものの見事に失敗したという印象。

 

www.ghostintheshell-sac2045.jp

 

加えて、2021年11月から新たに公開される映画(※本記事執筆が2021年10月)『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』は、ぶっちゃけていうと「SAC2045失敗したから作り直すわ」と言っていることに他ならないと思う。

本来なら、別に監督を変える必要もなく、タイトルも付け加える必要もなく、ただただ総集編を作ればいいだけな気がするが、実際は「新たなシーンも追加する」とあり、神山も「今回は委ねる」とコメントしており、明らかに神山監督が何かミスをして下ろされたのか、あるいは神山監督がやりたいことができずに神山監督自ら降りるような形をとったのか(自分は後者だと考える)、そのどちらかであると思う。

 

サイコパスに本広監督を引っ張ってきたのが誰かはわからんが、IGの本広監督を引っ張ってきた人間ともめとるんちゃうかという邪推はしている。

理由として、サイコパスは実写系監督引っ張ってきて成功してて、今回のSAC2045も「土城温美」という実写系(演劇含む)監督を引っ張ってきており、この方の実績として引っかかるのはこのあたり。

2016 本広克行総監督作品『踊る大空港、或いは私は如何にして
踊るのを止めてゲームのルールを変えるに至ったか。』脚本
2015 本広克行総監督作品『踊る宣伝会議(略)season2』脚本
2014 本広克行総監督作品『踊る宣伝会議(略)season1』共同脚本

本編(踊る大捜査線)のほうではないにせよ、3年も似たような企画に関わってたのであれば多少は繋がりはあるだろうし、本広監督引っ張ってこれるのならこういった人も引っ張ってこれるだろう。

その上で、今回の『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』も実写映画畑の藤井道人を連れてきている(※ちなみに、アニメは完全に初めての人)

ある程度どこかの「実写畑の人間を使いたい」という思惑(おそらくIG経営層?)が働いていることは否めない。

 

しかし、何も実写畑の人間を連れてくれば成功するという話ではなく、本広監督の演出自体はイマイチ理解しきってはいないが、本広監督自体はアニメが好きで、踊る大捜査線なども「パトレイバーから相当に影響を受けている」というコメントをしているし、そもそも「刑事ドラマ」という点ではサイコパスとは類似が多少なりともあり、全くの大外れの人間を連れてきたわけではない。

 

その点で藤井道人はどうもアヤシイと思うが………。

 

そういう意味では、今後のSAC2045もあまり期待できそうにはない……。

 

 

おわりに:軸を決めよ、攻殻機動隊

僕は何も、制作陣に誹謗中傷を飛ばしたいわけではない。

何か方針があるならば、しっかりとした軸を決めてほしいということである。

だから、別にコアなファンとして「わかりやすい攻殻なんて認めない!!」って話でもないし、逆にライトなファンとして「もっとわかりやすくしろ!!」と言いたいわけでもない。

どちらかの軸がはっきりしていたら、その軸に沿ってみることができる。

「今回は新規獲得のためのライトな攻殻ですよ」と言われたらその目線で見るし、

「SACと全く別路線の新たな攻殻ですよ」と言われたらその目線で見る。

 

しかし、今回は全く軸が分からず、色んな観点で見てみても話の軸がわからず、終始アニメ作品としても何がしたいかわからない、もっとマクロに見てProdaction I.G.の経営的観点で見てもわからない、普通にも楽しめない、と、マジで何がしたいかがさっぱりわからなかったのである。

 

おそらく今度の映画で作り直して再出発を図ると思うので、その再出発では頑張ってほしい……と言いつつ、既にもうあんまり期待していませんが……。